2014年1月30日木曜日

●『〈女神的〉リーダーシップ』(ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ著 有賀裕子訳 プレジデント社 2013) 

ビジネスや人々の暮らしを取り巻く環境が、明らかに数十年前から変化している。だとするならば、変化する環境にフィットした価値観と、その価値観に基づくリーダーシップが必要とされる。
本書は、今後求められるリーダーシップを「〈女神的〉リーダーシップ」と名づけている。

従来女性的と見なされてきた理念や資質が、産業界、政・官界、コミュニティ組織などで優勢になっているのではないか。その考えをもとに2011年夏に、世界主要50ヵ国の75万人の消費者と5万企業を対象にした1993年からの調査結果を蓄積したブランド・データベースBrandAsset(R) Valuatorを使って、経済、テクノロジー、世代の影響、グローバリゼーションなどの諸要因により、「女性的」な特徴のほうが一般に高く評価されるようになっているのか否かを探った。

調査の結果、人生で成功するには男性的な資質と女性的な資質の両方がカギを握ると考えているという回答が多数を占めた。
全体の65%が、政府に女性のリーダーが増えれば信頼や公平さが増進して戦争や不祥事は減ると見ている。
成功へのカギはおおよそ以下の通りにまとめられる。

 つながり:人脈を築き保っていく能力
 謙虚:よく話を聞いて他人から学び、手柄を分かち合おうとする姿勢
 率直:包み隠さず誠実に話をしようという意思
 忍耐:解決策がすぐに見つかるとはかぎらないという認識
 共感:他者への深い理解につながる気配り
 信頼:信頼される実績と人柄
 寛容:すべての人や考えを受け止めるあり方
 柔軟性:必要に応じて変化、順応する力
 弱さ:自分は完璧ではなく失敗もあると認める勇気
 調和:調和の取れた目的意識

これらの資質は、ギリシア神話の女神アテナに例えられる。アテナはその知性、技能、文明化への影響、公正さなどが崇拝の対象となり、産業、芸術、工芸の女神とされた。

ただしあってはならないことは、男性的価値観と女性的価値観が対立あるいは衝突することだ。
〈女神的〉価値観をベースに、男性的な価値観を含む多様性のなかで、相互を認め合い建設的な議論をすることが、問題解決、イノベーションのための最良の方法である。

奇しくも本日、30歳の女性研究者・小保方晴子さんが第3の万能細胞、STAP細胞について発表し、世間をアッと言わせた。「〈女神的〉リーダーシップ」の時代を予感させた日とも言えるかもしれない。

2014年1月25日土曜日

●『関谷英里子の交渉で使えるビジネス英語 初級編 』[Kindle版](インプレスコミュニケーションズ 2014)

マーク・ザッカーバーグやフィリップ・コトラーなど著名人の同時通訳者として活躍する著者。そのビジネス英語のエッセンスを知ることができる。

全文を暗記できる程度の32フレーズのため、食い足りなさは否めない。しかし頭の中にはスルリと入ってくる。

著者の感性ー例えば「日本語から考えると正しい英語に一見感じるが、聞くほうには失礼な印象を与えている」とか、「より丁寧な表現するためにはどうしたらいいか」と考えることで、英文をブラッシュアップしていく。

今回、Kindleではなくスマホで全部読んでみた。例えば電車の中でスマホで30分程度読むにはちょうどいい分量かもしれない。読書のスタイルが日常に溶け込み、確実に変わってきていると感じる。

2014年1月23日木曜日

●『JALはなぜ生まれ変わることができたのか 稲盛氏自身が解き明かす謎 』[WEB新書](週刊ダイヤモンド編 朝日新聞出版社 2013)

週刊ダイヤモンドの2013年6月22日号特集記事をWEB新書として購読できるサービスを利用。ビューアーでPDFで読めるほか、プリントアウトもできる。抜粋して資料として欲しい時には良いサービスだ。

JALが会社更生法を申請したのが2010年1月。エリートが多く官僚的で誰が乗り込んでも再生は難しいと言われていた体質の企業だ。しかし再建は予想を上回るペースで進み、今年4月には3年ぶりに新卒採用を行うという。

再生のエンジンとなったのは、「意識改革」と「部門別採算性」を敷いた「稲盛経営」である。
山ほどの課題を抱え倒産したJALに、航空運輸業の経験がまったくない京セラ名誉会長の稲盛氏自身のインタビューをはじめ、京セラ、KDDIの経営実践例を交えて、JAL再建の核心に迫っている。

稲森氏が「再建の任」を承諾した理由は、もしJALが二次破綻した場合、日本経済に与える影響の大きさ、残った社員の雇用を守ること、社会インフラとしての利便性を守る、ということだったという。

崇高な使命感のもとで報酬ゼロで再建に臨んだ稲森氏は、経営哲学「フィロソフィ」と、経営管理システム「アメーバ経営」だけを携えて乗り込んでいった。
まるで企業小説を読んでいるような再建のヒストリーに、稲盛氏の経営者としての熱い「心」を感じ、その姿勢に襟を正して言葉を受け止める一冊だ。

2014年1月15日水曜日

●『カール教授が女子高生にハーバードのビジネス理論を説明してみた 』[Kindle版](平野敦士カール インプレスコミュニケーションズ 2014)

100円で経営学のエッセンスを1時間で学べる―。これはインパクトが強い。コンセプトは「もしドラ」に近い。

筆者であるカール教授が、女子高生と会話しながらマイケル・ポーターをはじめとするビジネス理論から、分析手法、構築方法まで、具体的な企業事例を交えながらわかりやすく解説していく。
経営学のキーワードと概略をサーっとさらうには非常に良いツールだと思う。

この電子書籍でキーワードをチェックして、さらに「ブルー・オーシャン戦略」や「プラットフォーム戦略」、「ファイブフォース戦略」など、従来型の読書の方法で知識と理解を深めていくための手引き書になるだろう。

ある意味で電子書籍と紙媒体の差異がはっきりわかる一冊。改めて電子書籍の存在意義や活用法を再考する機会となった。

2014年1月13日月曜日

●『文化資本論 超企業・超制度革命にむけて』(山本哲士 新曜社 1999)

日本企業は、経済効率を重んじて、ヒト・モノ・カネを動かしてリノベーションを続けてきた。その経済成長に依存してきたあまり日本の国際競争力は失われてきたと言っても過言でないだろう。
この閉塞状況を打開するためのキーワードのひとつが、本書が説く「文化資本」である。

「文化資本」と言うと、仏・社会学者のピエール・ブルデューが提唱した概念、「個人の中に蓄積した文化資本が、結局その個人の将来の学歴、地位、収入などを決めるようになる」と通常解釈されるが、筆者の説く文化資本とは、それとは異なり経済学的な意味が含まれる。文化は一般的に経済や経営に遠くかけ離れているものと思われがちだが、実は次の経営に活かせるストックであり、資本であるとしている。

経済資本の蓄積と短期的な利潤を追求した20世紀型の企業活動を超え、企業に蓄積された文化資本を経営の基軸に置くことで、人間性や地球環境と矛盾しない持続的な経済発展の形を考えるべきである、というものである。

日本企業が得意としている改良や改善は、既存の価値を効率よく生み出す「リノベーション」に過ぎない。本当の意味で創造的な活動というのは、既存の価値の延長線上にはない。
私たちはリノベーションではなく、「イノベーション」によっての文化的な価値を創造し、新たなステージにのぼる必要性がある。

2014年1月11日土曜日

●『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』(クレイトン・M・クリステンセン, ジェームズ・アルワース, カレン・ディロン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)  翔泳社 2012)

昨年、半分位読んでいたものを遂に読了。
本書は「イノベーションのジレンマ」の著者・ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授によるものだ。
「イノベーションのジレンマ」は、巨大企業とイノベーションについて描かれた経営学の名著で、私も大学院時代に論文を書くために読んだ。

本書は2007年から2010年の間に悪性腫瘍や心臓発作、脳卒中など数々の病魔と戦いながら執筆されたという。そのため、クリステンセン教授が教えてきた経営戦略論を人生訓に落としこみ、ハーバード・ビジネススクールの卒業生に向けて、人生のジレンマを乗り越えて生き抜くためのメッセージの数々が網羅されている。

特に第一部の「キャリア」についての考察が、個人的には印象に残った。
仕事へのモチベーションには「衛生要因」と「動機づけ要因」の2種類がある。
衛生要因は、「少しでも欠けると不満につながる」ために、どんなに改善しても仕事を好きにさせることができない。「報酬」などがこの要素に当たる。ちなみに「動機づけ要因」には、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などがある。
その他、キャリアの創発的戦略と意図的戦略、自分という資源の配分方法などが紹介されている。

原書論文のタイトルはこうだ。
"HOW WILL YOU MEASURE YOUR LIFE?"
(あなたは自分の人生の価値観をどこに置きますか?)

自分の原点はどこにあるのか。地位や名誉にとらわれることなく、自分の一番大切とする動機、達成感を基盤とすること。
それをもとに幸福に生きることを見出すことが必要だということを投げかけている。「経営論」の枠を超え、「人生論」として読みたい一冊だ。

2014年1月9日木曜日

●『リバース・イノベーション』(ビジャイ・ゴビンダラジャン,クリス・トリンブル ダイヤモンド社 2012)

「リバース・イノベーション」とは、グローバル企業が自社のリソースを活用して、新興国で一からサービスや製品や市場を開拓し、そこで完成したものを先進国や自国に還流することを指す。

その国に合った製品やアプローチで攻めていくことは、考えてみれば当たり前の話である。しかし、いわゆるドミナント・ロジック(長年の経験・知識の蓄積のなかで選び抜かれた、当該組織専用の成功のロジック )でがんじがらめになっている大企業にとっては、なかなか簡単にはいかない。

富裕国には10ドル使える人が1人、貧困国には1ドル使える人が10人。富裕国向けに作られた製品の廉価版は外部環境が違う貧困国では売れない。
売るためには、ゼロからマーケティングを行い製品を作る必要がある。

新興国の未来は先進国の現在ではない。新興国は先進国とまったく別の進化をたどっている。本書は新興国向けの製品が先進国のダウングレードでは通用しないと示唆している。

たくさん事例が挙げられていたが、特に印象に残ったのは、ロジテックのマウス、P&Gの生理用品、GEの携帯型心電計の3つだ。

新興国で開発した製品やプラットフォームが、先進国の隠れたニーズを引き出し新たな市場を作り出すことができる。それがリーバス・イノベーションの肝と言えよう。

2014年1月4日土曜日

●『日本近世における聖なる熱狂と社会変動 社会変動をどうとらえるか4』(遠藤薫 勁草書房 2010)

息子の大学の先生の著書。いわゆる社会工学的見地から書かれた論文であるため、若干の読みづらさは否めなかったが、内容的には非常に面白かった(私の大学院時代の恩師の言葉を借りるといわゆる「噛みごたえのある」本だ)。

江戸時代の社会変動に対する考察を軸として、「ええじゃないか」「忠臣蔵」「自動機械」「TDLと善光寺参りの比較」などが分析されている。

特に興味深かった点は2つ。
一つ目は自動機械に対する考察だ。自然の時間にこだわった日本では、機械時計は一般化せず、資本主義や大量生産も発展する事はなかった。
しかし機械時計の技術は、からくり人形に姿を変えて継承され、19世紀の開国とともに、改めて日本の時計産業を発展させ今に至る。

西欧型の自動人形は、人間が新たな神となって新たな人形(ロボット)を創造しようとする、いわば自然への挑戦だ。これに対して日本のからくり人形は、人間と機械とが融合して、新たな自然美を創造するものだった。西欧型は技術追求、日本型は芸術追求という姿勢である。

これは現在においても、日本のモノづくりの職人の姿勢に通じるのではないか。
精緻で美しいモノを生み出す執念は、まさに芸術家のそれと同等とも言えるかもしれない。ただ、そこに拘泥しすぎるといわゆる「ガラパゴス化」も進む。その点も今後、十分配慮していかないといけないだろう。

二つ目は、TDL(東京ディズニーランド)と善光寺の類似性である。両者とも「私」性から来ているところが興味深い。
善光寺は本田善光という人物の私寺がそのルーツであり、一般人の信仰を集めることで拡大してきた。
一方、DLは、ディズニーという私人による創設であり、TDLが出来た。
両者とも集客力に優れ、異界性、共有性、感覚性、宇宙性、拡大性など共通要素が多い。

これらの要素を情報化社会における「地域活性化」として考察するところが、筆者の独自の視点である。

あとがきにこんな一文があった。本書の内容を端的に語った秀逸な一文なので紹介したい(p200)。

 <社会>を考えようとするとき、<歴史>は、欠くことのできない観察記録であり、実験場である。
 <歴史>の窓をのぞきこめば、そこには無数の人びとがうごめき、語り続ける、見ても見尽くせぬ巨大ジオラマが展開している。そして、私たち自身、そのジオラマの一部なのだ。


2014年1月3日金曜日

●『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』(紺野登+目的工学研究所 ダイヤモンド社 2013)
利潤の最大化を求める「手段」を追求し過ぎたため起こった典型的な例が、2008年のリーマン・ショックだった。手段にとらわれすぎると、本質は見失われてしまう。

その後、同時多発的に「ソーシャル・アントレプレナー」や「社会的起業家」が世界中で現れはじめる。
21世紀は「手段の時代」から社会的な「目的の時代」になるべきだと本書は提言する。

マイケル・ポーターは「社会的な課題を解決することによって、社会と企業の双方に利益をもたらすビジネスを創造すべきである」と提唱する。
このCSV(Creating Shared Value: 共通価値の創造)の考え方については、私も前作『「折れない」中小企業の作り方』(日刊工業新聞社 2012)で、事例とともに紹介した。競争戦略の大家であるポーターでさえ、「社会問題解決と競争力強化の両立」を説き始めたのである。

本書の事例で登場するノーベル平和賞を受賞したムハマッド・ユヌスは、貧困層の経済的支援により、一人ひとりの生活の向上を「目的」とし、それを実現するために「マイクロ・クレジット(少額融資)」のシステムを創造し、グラミン銀行を立ち上げた。これも私は前作で紹介した。

また、「目的」と「目標」は似て非なるものである。売上増やコスト削減により利益率を上げることは数値を基準とした「目標」であり、「目的」ではない。
この「数値目標」に評価軸を掲げすぎたあまり、「目標」に従って仕事をこなすだけの組織となり、個々の「働く目的」は希薄となり、イノベーションが起きにくくなってしまったという現実がある。

本書が掲げる「目的工学」とは、「目的の追究」のためのマネジメント手法であり、イノベーションを創造するための方法論だ。
このコンセプトとフレームワークは、東日本大震災という未曾有の体験を抱えた日本企業が、復興への対応と自社の競争力強化を両立させる戦略を考える際の重要な課題になると思う。
●『どっこい大田の工匠たち 町工場の最前線』(小関智弘 現代書館 2013)
大田区には、従業員3人以下の現場を対象とした「大田の工匠100人」という表彰制度がある。
その審査員のひとりで、町工場で旋盤工として働きながら、数々の作品を世に出してきた小関智弘氏が17人の工匠たちを訪ねたルポルタージュだ。

のっけから登場する安久工機さんの医工連携のエピソードを始め、包丁作りや江戸切子、民族楽器のスティール・パン職人など、大田区が得意とする機械金属加工の職人のみではないユニークな事例も含まれている。

職人たちに共通しているのは、長い下積みの日々を送り、ときには理不尽な要求も受け入れる。それでも研鑽を続け、他所ではできないモノづくりの技術で生き抜いてきたこと。

彼らが残してくれているものは、モノだけではない。確かなモノをつくりあげてきた生き方への矜持だ。大田区に生きる町工場の職人の息吹を愛情をもった表現で感じられる良書だ。