2014年2月21日金曜日

●『ガバナンスとは何か』(マーク・ベビア 著 野田牧人 訳 NTT出版 2013)

「ガバナンス」は日本語では「統治」と訳される。
企業や政府、NPOなどあらゆる組織の構成員をまとめ、業務を遂行するための能力、価値観、方法論を指す。しかし、なかなかこれといったイメージを持ちづらい。

本書は、一見、イメージがつかみにくいガバナンスについて、理論と実践がてどのように移り変わってきたのか、企業、公共、また国際間それぞれのガバナンスが、現在どうなっているか等について明らかにしている。

論じる軸となるのは、組織の3つの形式、すなわち「階層構造」「市場」「ネットワーク」だ。
この3つの形式は、メリットとデメリットがある。
たとえば、今はネットワークが主流だとして、階層構造を時代後れのものだと否定する論調もある。
しかしそう捉えることは果たして得策であろうか?

現代の組織はむしろ、この3つの形式を「いかにすり合わせて組み合わせるか」を考えていくべきだと思う。
階層構造か市場かネットワークか、どの色が強くなっているか。
それがその組織の個性を決める。
今、求められるガバナンスとは、上手にそのすり合わせと組み合わせを考えていくことと言えるかもしれない。

2014年2月11日火曜日

●『レジリエンス 復活力‐あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か』(アンドリュー・ゾッリ/アン・マリー・ヒーリー 著 須川 綾子 訳 ダイヤモンド社 2013)

自然災害や人為的な大事故、金融危機やエネルギー危機などによって、個人や企業などの組織、コミュニティを取り巻く環境や状況が大きく変化する可能性がある。
そうした「状況変化へ対応する能力」を「レジリエンス」と呼ぶ。

優れたレジリエンスを育て、発揮するためにはどうすべきか。
本書は森林などの生態系や企業やコミュニティにおける実例をもとに、理論的に検証している。

興味深かったのは、優れたレジリエンスを発揮するコミュニティには、それを支える特定のタイプのリーダーが存在する、ということだ。
彼らは人々を結びつける卓越した能力をもち、政治的、経済的、社会的立場の異なるさまざまな組織のあいだに協力関係を築く。そして相互の交流の橋渡しをする。

彼らは、明確なビジョンを掲げる剛腕タイプの CEOとも、大胆に決断を下し采配を振るう政治家とも違う。
また、一般大衆の意見を汲み上げ提示する草の根活動家とも違う。
彼らは組織階層を自由自在に乗り越えて柔軟に働きかけ、各関係当事者が互いに理解し合うための通訳を務める、いわば「通訳としてのリーダー」である、と紹介されている。

混乱に見舞われたとき、このようなリーダーの存在が有事を平時に変えていく可能性がある。
これから求められるリーダー像を考えていく上でも、「レジリアンス」の視点は大いに参考になる。

2014年2月10日月曜日

●『「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か 』[Kindle版](上原 善広 新潮45eBooklet 2013)

世間をアッと言わせた佐村河内守氏のゴーストライター騒動。
「感動のストーリー」に人はなぜ安易に飛びつくのか?
全聾、被爆者という本来、その音楽性への評価になりえないものをバックボーンに、あえて仰々しいストーリーをまとわせることによって、クラッシック界のスターに仕立て上げる。
それを牽引してきた一部マスコミの罪は重いし、それを検証することもなく踊らされた人が数多かったのも事実として受け止めなければならない。

音楽理論の研究者であり指揮者でもある著者が、純粋に佐村河内氏の発言と音楽性から公平に判断し、事件発覚前に矛盾の数々を指摘した。
その慧眼に敬意を表する。

2014年2月9日日曜日

●『話すチカラをつくる本』(山田ズーニー 三笠書房 2010) 

4月から社会人になる息子が「この本はわかりやすい」といたく感激していたので、試しに読むことにした。
著者は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の「大人の小論文集。」を連載していることで知られている。
とにかく文章に無駄がなく、読みやすい。
さすが長年、ベネッセの編集者として鍛えられてきた人物だ。読ませることに長けている。

想いを伝えるために必要な要件は7つ。
1.自分のメディア力(相手から見た自分の信頼性はどうか?)
2.意見(自分がいちばん言いたいことは何か?)
3.論拠(意見の根拠は何か?)
4.目指す結果(だれがどうなることを目指すのか?)
5.論点(いま、どんな問いに基づいて話しているのか?)
6.相手にとっての意味(突き放した時、相手から見てこの話は何か?)
7.根本思想(自分の根っこにある想いは何か?)
(p.40より括弧部分説明加筆)


私が最も共感できるのが7つ目の「根本思想」だ。そこには次のようなことが記されていた。
言葉は氷山の一角のようなもので、根っこの部分には大きな価値観、思想が横たわっている。
「根本思想」とは言葉の製造元のようなもので、言葉の端々から常に自分の根本的な想いが表出している。
それはどんなに隠そうとしても隠しきれないもので、時々自分の想いをチェックして根っこの部分にどういう想いが含まれているのか、第三者的に見つめ直すことが重要である、ということ。

話すチカラにはノウハウが必要だ。
しかし、人間関係をスムーズに築き上げる心配りや気遣いを尊重した上で、言いたいことを言えるようになること。それによって開ける未来の重要性を本書は示唆している。
就活生や新入社員に是非とも薦めたい一冊だ。

2014年2月5日水曜日

●『創業一四〇〇年‐世界最古の会社に受け継がれる一六の教え』(金剛 利隆 ダイヤモンド社 2013) 


「世界最古の会社」として知られるのが、大阪に本社を持つ建設会社・株式会社金剛組だ。
飛鳥時代の578年に創業、2013年に1435周年を迎えた。
聖徳太子から四天王寺の建立を命じられた時からの伝統を守り、代々「四天王寺正大工職」を襲名し、金剛姓を継承する。

本書は、同社社長、会長を歴任し、現相談役を務める第39世四天王寺正大工職・金剛利隆氏が、2005年の倒産の危機を乗り越えた経験等をもとに「なぜ金剛組は1400年も存続することができたのか」を解き明かしている。

危機を乗り越えて金剛組が生き残ってきた理由の一つには、確かな技術を持つ人材を育て続けてきたことにある。

二つ目は、後継者の選び方が挙げられる。金剛組は「金剛」の姓を守り通しているが、そのすべてが直系ではない。
それは、血縁以上に、宮大工をはじめとする職方をまとめあげる能力を重視すべきという教訓があるからだ。

三つ目は、原点を忘れないこと。第32世金剛喜定は、子どもたちのために遺言書を残している。そこには、「職家心得之事」という16条からなる金剛家当主としての心構えが記されていた。
この16の教えには、分相応の「中庸の精神」を持つことの大切さが綴られている。

2005年になると、会社更生法と民事再生法のどちらを申請すべきなのかというところまで検討しなければならない事態にきていた。
それを救ったのが高松建設だった。高松建設・高松孝育会長(当時)は「金剛組を潰したら、大阪の恥や!」とまで言った。
それによって、金剛組は公的支援を受けずに再建の道を歩き出したのである。

再出発をするに当たっては、金剛組の大原点である社寺建築に立ち返ることから始まった。「宮大工なくして金剛組はない。社寺建築こそ金剛組の原点である」。
そして、社寺建築以外の仕事を一切請け負わないという約束が設けられた。

経営に行き詰まったときには「原点に帰れ」という教訓をよく耳にする。
しかし金剛組の場合、「原点」は何百年も前に遡る必要がある。「原点」に帰るときには、「現代」と「原点」のすり合わせが必要だ。
そのすり合わせが乖離せずできたときに、「復活」が可能になるのだろう。